「オクトーバー・ムーン」

この曲も提供曲のカバーだった。

甲斐という人は甲斐バンド向けの曲、自分自身への曲、そして提供曲と状況を変えて曲の色合いを思った以上に変えている。
この曲のリアル当時ではやっぱり甲斐バンドのイメージが強かったためか、この曲の持っていた色合いや特徴は想像できなかった。
提供するその先の匂いを大事にしたんだろうが、確かにバンド向けの曲ではなかった。
バンドでニューヨーク3部作を作っていた終盤、甲斐がソロでアルバムを作っていたことはよく噂されていた。
この曲を大事にしようとするのだったら、提供曲ではなく自分だけに向けての曲であってほしかった。

単にこういう世界を演じる言葉が選べるんだというものと、そのいくつも七辺られた言葉のニュアンスと色合いを高揚させるためのアレンジ能力がこんなにも高かったのかという感じが強く感じられたことを覚えてる。
少なくとも甲斐バンドの変遷を踏まえてきた者にとっては、想像できなかった世界が作られていた。
バンドの成長という階段は、甲斐個人にとっても同じだったようで、カバーアルバム『翼あるもの』からは想像できない位に飛躍していた能力と可能性が感じられた。

アルバム『Repeat&Fade』からはアレンジャーはそれまでのボブ・クリアマウンテンから変わってたけど、正にそれもタイムリーなことだった。
名曲は詞、メロディ、テンポとアレンジがしっかり絡み合って初めて出てくるものだし、歌いこなしも重要な要素。
この曲はその全てがハマっていた。

ライブでは聞いたこともないし、取りあげられた話もきいたことがない。
でも、曲の魅力を大事にするなら取りあげないでいて欲しい。
この曲が出た1986年の頃の味わいは、あの時だけのものだから。