「夕なぎ」

波間を走る光る風が 波打ちぎわまでよせてきて
すぐにも青いとどきそうな空と この指につづく海がある
男は粋なセリフをさがす
女は静かに待ってる
ふたりでつくった砂のお城

ここまで歩いてきた足跡は いつしか風にかき消され
ビンに詰めた二十歳の形見 白いしぶきに運ばれた
男は過ぎゆく時に気づく
女は過ぎない時を祈る
ふたりでつくった砂のお城

足もとにとどく夏の残り香は 水に濡れた麦わら帽子
波の影に崩れゆく城は 指のすき間からこぼれる日々
男は立ち去ろうとする
女は泣きながら聞く
遠い夕なぎ

男は去ろうとする
女は泣きながら聞く 遠い夕なぎ

(作詞:甲斐よしひろ・五業昌晶、作曲:甲斐よしひろ)

恋愛について冷めた目で見ることが出来るのが女、その逆が男。
男は気が付いているのに、なかなか切れない女の心情を書いたようなこの曲はマネージャーとの共同作業でもあった。
けれど、都会に出てきていても田舎での想いを引きづっていたバンドの草創期のある種の力も織り込まれていた。
田舎と都会という舞台を別にした恋愛を経験していたかもしれない1977年、25歳の甲斐。
そこが分かるようになるまでかなり時間がかかっていたことを思い出す。
怠惰なメロディは、そうして作り上げた詞の魅力を際立たせようとしていたんだろう。

この曲に書かれた恋愛感は、正に凪であり、海に近いところで育った甲斐ならではのことだったのかもしれない。